茨城県常陸太田市で理想の暮らし方
文:杉山正博
写真:鈴木俊介
※写真
(左)現在、近藤さんは計5か所、約1万平米の畑で野菜を栽培。
(右上)左から、やわらかな食感のひもなす、生でも食べられる水ナス、京都の賀茂ナス、一般的なナス。
(右下)昭和初期に建てられた住まいは、県の「グリーンふるさと振興機構」に探してもらった。
人と自然に寄り添い、有機農業を
岡山県出身で、東京の大学で学び、西アフリカの農村開発にも携わった近藤良弘さんは、人のあたたかさや、有機農家が多く技術を学ぶ機会に恵まれていることにひかれ、2010年に常陸太田市に移住。
翌年、新規就農を果たし、おいしい有機野菜をつくりつづけています。
安全というだけでなく おいしい野菜をつくりたい
緑豊かな山々の間を流れる、清らかな"里川"に寄り添うように田畑や集落が広がる。茨城県北部の常陸太田市のなかでも北のほう。
美しい自然に抱かれた里美地区に、近藤良弘さんの畑はある。
「ここは水も空気もきれいで、昼夜の寒暖差も大きい。だから、おいしい野菜が育つんです」
近藤さんが初めて農業の魅力に触れたのは、北海道の農場へ体験に訪れたときのこと。
農作業で体はヘトヘトになったが、その疲れが心地よかった。
以前から国際協力の分野に進みたいと考えていた近藤さんは、東京農業大学の国際農業開発学科に再入学。
農村開発について学んだ後、さらに農業の技術を学ぶために、知人の紹介で常陸太田市の有機農家を訪れ、半年間研修を受けた。
青年海外協力隊として西アフリカの農村開発に2年間携わり、33歳で帰国。その後、悩んだすえに、有機農家として就農することを決意する。
「国際協力はずっとやりたかった仕事で、西アフリカでの活動も充実していました。けれど、人に技術を伝えることと、自分で体を動かし野菜を育てることを比較したとき、僕にとっては、後者のほうが喜びが大きいと感じたんです」
就農先として地元の岡山も考えたが、移住者の先輩たちが地域の人との信頼関係を築いていたおかげで、あたたかく受け入れてもらえること、まわりに有機農家が多く技術を学べることなどが決め手となり、常陸太田市を選択。2010年末に移り住んだ。
いまでは町内会や消防団にも参加。地域の飲み会に誘ってもらったり、祭りの準備を手伝ったりと、この地での暮らしを楽しんでいる。
収穫したばかりの茶豆をいただくと、口中に深いコクと甘みが広がった。
冬場、寒暖差の大きい気候のなかで育つほうれん草も、甘みが濃く格別においしいという。
現在、近藤さんは年間30品目から40品目の野菜を育て、地元のスーパーや直売所に卸している。
「安全な有機野菜というだけでなく、ほんとうにおいしいものを、喜ばれる野菜を届けたい」
近藤さんの熱い思いが込められた野菜はこれからも食べる人々を魅了しつづけるだろう。