- 2024年11月11日
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常陸太田市金砂郷地区に伝わるそばは、冬場に食べる主食でした。
主食というとお米と思われるかも知れません。
そばの産地で山間の金砂郷地区でも、お米は重要な換金作物であって、毎日、食べるものではなかったそうです。
夏場の主食はうどん、冬場の主食がそばでした。
そばといってもざるに盛った、あるいは出汁に入れたような食べ方ではありません。
この地域ならでは、独自に生まれたそばの食べ方です。
「つけけんちん」と呼ばれ、具沢山のお汁に太目のそばをつけて食べるものです。
秋の農産物がふんだんに使われます。
具となるのは、ネギ、ダイコン、牛蒡、コンニャク、ニンジン、天然しめじ、芋殻といったものです。
野菜類を油で炒めて、さらに味噌で炒め、これをカツオと昆布のしっかりとった出汁で煮て、醤油と味醂で味付けをします。
金砂郷地区の女性たちはみなそば打ちの名人です。
嫁いでくると、みんな家族のためにそばを打ちます。
そばの粉に、石臼でしっかりと挽いた後に出た薄茶色の粉「めごな」をぱらぱらと振り掛けます。
香りと甘みをつけるためです。
そして、しっかりと麺棒で何度も伸ばし、重ねては伸ばし、十分に伸びきったところで、包丁で切って茹でて、具沢山のお汁につけて食べます。
歯ごたえよく、香りよく、そしてお腹の底からからだ全体が温まる。
しかも野菜類の味わいが共鳴しあった旨みあふれるものです。
なるほど、冬の主食だったというのが納得できます。
昔の「つけけんちん」は、もっとかぐわしい香りがしたといいます。
というのも、自家製の菜種油が使われていたからです。
かつては、常陸太田でも菜種が栽培されていて、そば用の野菜を炒めるのも菜種油が用いられていたそうです。
自家製の菜種油は色合いが琥珀色で美しく、しっかりした素材の味を引き出し、芳醇な香りを漂わせるものでした。
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